DV離婚、面会交流、フランス映画 『ジュリアン』

ジュリアン

社会問題に真正面から切り込み、本国フランスで40万人を動員するロングランヒットとなった映画『ジュリアン』(グザヴィエ・ルグラン監督)が、日本でも1月25日より公開された。本作でルグラン監督は、第74回ヴェネツィア国際映画祭(2017年)で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。

昨年暮れ、ルグラン監督が来日し、「親としての義務を果たせない親は、離婚後に子どもとどんな関わりをすればいいのか。考えるきっかけとして欲しい」と語った。

●子は「二度と会いたくない」、夫は「妻が仕向けた」

映画は、夫婦の離婚調停のシーンで始まる。妻(ミリアム)は、夫(アントワーヌ)からの暴力を理由に離婚と子どもの単独親権を求める。当の子ども(ジュリアン)も母との暮らしを望み、父との面会を強く拒んだ。

調停では、「平穏な生活をのぞみ、子どもの幸せだけを願う」(ミリアム)、ジュリアンも文書で「ママのことが心配なので離婚はうれしい。週末の面会を強要しないでください。二度と会いたくありません」と、判事に訴えかける。

一方のアントワーヌは、妻子に暴力をふるったことを否定し、共同親権を主張。「子どもとの関係を断つように仕向けているのは妻。子どもの教育には父親が必要」と一歩も譲らないのだ。

ミリアムはDVの有力な証拠を提出することができず、審理は平行線のまま、わずか20分で終わった。その結果、アントワーヌの望み通り、共同親権、隔週での週末の面会が命じられるーー。

誰が嘘をついているのか。観客は判事にかわって、裁判所の決定に揺れる一家を見守ることになる。

●「子どもへのケア、対応が不十分」

ルグラン監督は、DVをテーマにしたのは「フランスでは3日に1人、DV被害者が亡くなっている 」実態を知ったことがきっかけだったと話す。専門家やDV被害者たちに話を聞いたり、裁判所へ足を運んだりして、丹念に取材をした上で撮影に臨んだ。

「主人公のミリアムは約18年間の結婚生活の中で、身体的にも精神的にも暴力にさらされ続けてきた。それでも周りとのつながりを持ち、さらには子どもの後押しもあって、一歩を踏み出すことができた。しかし一般に、DV被害者は声をあげることも難しい」

なぜ長い間、声をあげずに結婚生活を送ってきたのか。ルグラン監督は「ミリアムは身体的な暴力だけでなく、精神的にも被害を受けていたから」だと話す。

「力を誇示して、相手を抑圧し、日常的に貶める。それが続くと、言われた側はそのように思い込んで、自信を失ってしまう。得てして、加害者となる側は世間的な評価が高いので、周りもそのことに気づくことができない。証拠を残すことも困難。裁判になっても、被害を立証するのが難しい」

被害を立証することができなければ、親権や面会交流を決める際にも、事情は考慮されなくなってしまう。そのために「子どもへのケア、対応が不十分になってしまう。もっと予算をつけて、人と制度を整えるべき」と、ルグラン監督は語る。

本作の前、短編『すべてを失う前に』(2013年)で、ミリアムが同僚らの協力を得て、子どもを連れてアントワーヌから逃げる緊迫した様子を描いた。この作品も、アカデミー賞短編部門(2014年)でノミネートされるなど、高い評価を受けている。

その続編でもある本作では、身体的、精神的な暴力があった家庭における離婚後の親権、面会交流にあり方について正面から問題を提起した。

●「親としての義務を果たしていない」

せっかく逃げ出せたのに、隔週での面会が決まったことを知ったジュリアンは、この後、何が自分自身に、そして母に起こるのかを見越してなのだろう、恐れと深い絶望をにじませた表情を見せる。

「強い男であれば、家族を自分の意のままにできると思い込み、それが理想だと考えているから、精神的、身体的な暴力につながる。背景にあるのは、社会に根付く家父長制、男性優位の側面。加害者は生まれつきのモンスターではなく、強い男でいなければならないという価値観からうまれるものではないか」

「子どもに会いたい」。多くの親は、子どもと離れて暮らすことになれば、そう願うだろう。しかし、ルグラン監督は「暴力で家族を支配することは、そもそも親としての義務を果たしていない。離婚後も親とつながることは大切だが、すべてのケースで本当に必要なのか」と重い問いを投げかけた。

単独親権の日本でも、離婚後の面会交流は「子の福祉」のために、実施されている。親としての義務を果たしていない、あるいは親であることが困難なケースでは、子どもとどのような関わりが求められるのか。そして社会は家族をどう支えるべきか。

結論の難しいテーマに正面から挑み、観る者を揺さぶる作品だ。

【作品情報】『ジュリアン

監督・脚本:グザヴィエ・ルグラン/出演:レア・ドリュッケール、ドゥニ・メノーシェ、トーマス・ジオリア/2017年/フランス/93分/原題:Jusqu’a la garde/配給:アンプラグド/後援:在日 フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本